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静かな時限爆弾
COLUMN
2024.10.16

今年はカメムシが大発生で大雪の予想だそうです。

でも一説によると長岡市内では小雪だった昨年もカメムシは大発生していたんだとか。

寒いのは我慢するから大雪は勘弁してと祈っている

新潟県長岡市、自社大工の居る工務店、稲垣建築事務所の稲垣です。

昨日、魚沼の歴史ある某施設に建物調査にお邪魔したのですが

車に戻ったらカメムシが群れを成して車にへばりつき、

鼻の悪いボクでもそこはかとなくカメムシ臭を感じた次第です。

 

さて、今日は静かな時限爆弾の話を。

時限爆弾=アスベストです。

実は昨日の建物調査もアスベスト含有が怪しい部材のサンプル採取が主な目的でした。

現在進行形で工事が進んでいる木造住宅のリフォームでも外壁と軒裏からアスベストが確認されています。

アスベストが騒がれ始めてどれくらい経つのでしょうか?

アスベストと言うのは天然の鉱石から採取される繊維のことです。

鉱物でありながら非常に軽く綿のように加工が可能なため「石綿」(せきめん、いしわた)と呼ばれるようになりました。

日本の鉱石からはアスベストはまったくといっていいほど採取されず、アフリカ、南米大陸からの輸入です。

アスベストの太さは0.02ミクロンと言われています。

髪の毛の約5000分の1の太さです。目ではまったく見えません。

それで長さが数ミリであれば呼吸によって容易に体内に入ってしまうのは想像できます。

アスベストは石綿の総称なのでアスベストと言う物質が存在するわけでは無いのです。

クリソタイル(温石綿、白石綿)、アモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)、

アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトの6種類

 

吹付けアスベストが禁止になった1975年頃からアスベストの持つ発ガン性は周知の事実でした。

アスベストを使った建材を製造していた会社の従業員の方々や、その工場の周辺の住民の

方々まで実際に悪性中皮腫等のガンに侵されている事が明らかになってきたので

マスコミ等が騒ぎ始めたので一般の方々にも周知の事実となりました。

 

アスベストはそもそも鉱石から採取されますので燃えにくく、耐久性も抜群で

軽量さや加工性が良いと言う理由で「魔法の鉱物」とさえ言われた時代があります。

国内で消費されたアスベストの多くは建築資材に使用されていますが、

かつてはヘアドライヤーやオーブントースター等の熱を遮断する必要のあった家電製品や

ベビーパウダー、化粧品の一部にまで使われていたことがあるそうです。

現在使用されている吹付けロックウール(石綿、岩綿)や住宅の断熱材に用いる

ロックウール断熱材そのものがアスベストだと勘違いされる方々が少なくありませんが、

(建築業界にも勘違いされている方はいらっしゃいます)ロックウール断熱材をはじめ、

現在生産されている建材のすべてはアスベストは一切含有していませんのでご安心下さい。

さて、では私たちの廻りにまったくアスベストは存在しないのかと言いますと

残念ながら確実に存在しています。1980年代に学校などの公共建築物への吹付けアスベストが社会問題化されました。

(1975年に吹付けアスベストが禁止になったのですから当然ですね)

現在では公共建築の95%前後からはアスベストが除去されていると言う話です。

では可能性として私たちの周りのいったいどこにアスベストは潜んでいるのでしょうか?

住宅の屋根材。総称して「石綿スレート板」と言う製品ですね。日本人なら誰もが知る大手企業が

生産していました。ただ、不幸中の幸いと申し上げますとお叱りを受けるかも知れませんが、

「石綿スレート板」は安価で軽量で耐久性も良い割には当地ではあまり使われませんでした。

それは耐久性などはすばらしかったものの粘り強さが製品に無いため

雪下ろしを必要とするこの地域ではスコップでつつけば間違いなく割れてしまうためです。

ボクが若かりし頃、東京近郊のマンモス住宅分譲地に建つ家の8割?9割?が「石綿スレート板」の屋根でした。

その全てにアスベストは潜んでいますし、まだそのまま存在しているお宅もあるはずです。

最近では滅多に見かけなくなりましたがPタイルと言う内装床用の厚さ5mm程度のタイルにもアスベストは存在します。

事務所の床はもちろん、住宅の台所やトイレなどに使用されていました。

市松模様に張られたりしていた30センチ角くらいの薄いタイルですね。

このPタイルと言う代物は角が欠けやすく、その欠けた部分からアスベストが空気中に放出されます。

ボクが建築業界に入る前、繊維壁と言う名の塗り壁が存在していましたが

かなりの確率でこの繊維壁の中にもアスベストは含まれているようです。

まぁ、若い方はご覧になった事さえないかもしれないという代物ですが

今もそのまま使われている建物は確実に存在しています。

 

例えばPタイルなど、現在お住まいの住宅に使用されている建材が

アスベストを含んでいるか否かを判別するのは一般の方では絶対に不可能です。

ボクにも出来ません。ただ、建てられた(あるいはリフォームされた)年代、建材メーカーなどから推測することは可能です。

あくまでも推測の域ですので大して当てになるものでもありませんし、無責任に物は言えませんのでやはり私にも不可能ですと

言わざるを得ません。おそらく建築業界従事者のほぼ全ての方々が不可能なはずです。

本当にお知りになりたいのなら専門の業者に専門の検査を依頼して判別する以外にはありません。

そして最終的にその建物が寿命を全うし、解体の時を迎えたら、専門の業者に委ねるしか手はありません。

2005年7月に「石綿障害予防規則」なる規則が定められました。

アスベストが使用されている建築物の所有者や管理者にもアスベスト処理についての一定の責務を課する規則です。

アスベスト対策の遅れを国も認めています。

私ごときが何も言える立場ではありませんが規則で建物所有者にアスベスト処理の責務を負わせるなら、

その処理代金の一部でも補助してもらえないものだろうかと考えてしまいます。

アスベストの除去作業は非常に高額な工事費が掛かるのです。

人体の肺に呼吸とともに送り込まれたアスベストの潜伏期間は20~40年と言われています。

アスベスト輸入が全盛期だった時代を経て潜伏期間から目覚めようとしている時期は既に来ています。

『魔法の鉱物』から一転『静かな時限爆弾』と呼ばれるようになったのは

この潜伏期間の長さによります。

 

さて、脅かすだけ脅かしておいてこんな事を申し上げるのもおかしな話ですが

不必要に心配はしないで下さい。

例え皆さんのお宅にアスベスト建材が使用されていても、通常の場合はアスベストの濃度は基準値以下に収まっているはずです。

アスベスト建材、あるいは疑わしい建材が使用されているとしても

危険だから、気味悪いからと下手に触ったりしないで下さい。間違っても

除去してしまおうなどとは思わないことです。日常生活においてアスベストがそこにあること自体は大きな問題ではありません。触れたり、振動させなければアスベストは

空気中に飛び散る心配はほとんどありません。

それでもご心配なら、例えばPタイルが張られているお宅がなら、その上からクッションフロアなどのビニール系のもので床を覆うように張ってしまう。

吹付けアスベスト(又は疑わしいもの)が施工されている鉄骨の柱や梁が見えているお宅は石膏ボード等で覆ってしまい、ビニールクロスで密閉してしまうのも一つの方法です。

高性能の空気清浄機も有効です。シックハウスの原因であるVOCはガス化した

気体ですので空気清浄機では太刀打ちできませんが、アスベストは粉塵の部類に入りますのである程度は空気清浄機で対応できるはずです。

とにかく、慌てずにご自分で何とかしようとは決してお考えにならずに

ご近所、お知り合いの建築屋さんに一度ご相談下さい。

私を含めて、アスベストに関するプロがそこら中に居るとは思えませんが

大体の予測は可能なはずですし、当時の図面等で品番がわかればアスベストの有無を調べることも可能です。

 

↑鉄筋コンクリート造、鉄骨造、木造のハイブリッドな建物でした。

とても歴史ある佇まいが凛としているけれど温かい。とても素敵な建物です。